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Image courtesy of Pan Entertainment/Netflix

『おつかれさま』のVFX ー 時を超えて紡がれる物語

Netflixの世界的ヒット作である韓国発のロマンスドラマ『おつかれさま』は、50年にわたる壮大な物語を描いた作品である。物語の主な舞台は韓国最大の島・済州島。女優でありアーティストでもあるIUが、詩人になる夢を抱く貧しい少女エスンを演じている。

ソウルを拠点とするM83のVFXスーパーバイザー、Song Yong-gu氏に、本作のVFX制作について話を聞いた。Nukeを活用しながら、半世紀にわたる壮大な物語を歴史的な正確性を保って描くために、どのようなVFXワークフローが用いられたのかを紹介する。

Still from When Life Gives You Tangerines

『おつかれさま』のVFX ─ 時を超えて紡がれる物語

『おつかれさま』では、全16話を通して約9,800ものVFXショットが制作された。8か月に及ぶ制作には、複数のスタジオから300名を超えるアーティストとスーパーバイザーが参加した。

VFX制作の中心となったのは、済州島と首都ソウルの緻密な再現だ。1960年代から2000年代初頭にかけての街並みの変遷を描き出した。

Still from When Life Gives You Tangerines
Still from When Life Gives You Tangerines

「私たちは単に当時の風景を再現するのではなく、それぞれの時代ならではの空気感を表現することを目指しました」とSong氏は語る。

M83のチームは、時代ごとに映像の雰囲気やトーンを大きく変えることはしなかった。時代劇や年代物の作品では、彩度を抑えた色調やアスペクト比の変更によって過去であることを示す手法がよく用いられる。しかし本作では、監督があえて異なるアプローチを選択した。

「この物語が描いているのは、その時代を生きる人々の人生です。1950年代も2000年代も、彼らにとっては『現在』であり、最も新しく活気に満ちた現実だったのです」とSong氏は説明する。

Still from When Life Gives You Tangerines

VFXチームは、数十年にわたる登場人物たちの心情の変化を描くため、一貫した映像表現の確立に取り組んだ。物語は、人の一生を四季になぞらえて描いている。

「例えば、星空が広がる夜の海のシーンでは、リアルなドラマの世界観の中に幻想的な要素をさりげなく織り込みました」とSong氏は語る。「これは、主人公が感じる大きな喜びや驚きをより強く印象づけるための意図的な演出です。言葉では表現しきれない感情を、観る人の心に直接届く映像として表現することを目指しました」

済州島とソウルの再現

済州島の自然豊かな海辺の風景と、ソウルの密集した都市景観との対比は、物語を形づくる重要な要素だった。「済州島については、澄み切った空気感を表現することを重視しました。透明感があり、どこまでも広がるような開放感を目指しています」とSong氏は語る。

「一方のソウルでは、あえて落ち着いた色調と都市の密集感を意識した映像表現を採用しました。建物が立ち並ぶ都市景観や、やや霞んだ空気感を強調することで、済州島との違いを際立たせています」

Still from When Life Gives You Tangerines

時代考証を支えたリサーチ

歴史的な正確性を確保するため、チームは本作で描かれる各時代の映画作品を参考資料として活用した。ソウルのシーンでは、当時の道路網や交通量、建築様式を再現するうえで、これらの映像資料が重要なリファレンスとなっている。一方、済州島については、過去と現在の写真や映像を収集・整理し、島の景観の移り変わりをたどった。

Still from When Life Gives You Tangerines behind the scenes
Still from When Life Gives You Tangerines

また、美術チームとも緊密に連携し、調査で得た資料や知見をデジタルアセットと融合させることで、高いリアリティを備えた映像世界を作り上げた。ロケハンのために実際に済州島を訪れたことも、大きな収穫だった。特徴的なシルエットを描くオルム(火山性の丘陵地形)や、透き通るような海など、島ならではの風景から着想を得ることで、作品の世界観にさらなる奥行きを与えている。

Nukeが支えた映像表現

歴史的な環境を正確に再現することを最優先課題とした本作では、3Dアセットと大規模なマットペインティングを組み合わせる手法が最も効果的だった。

「こうした多様な2D・3D素材を統合し、細部まで調整していくうえで、Nukeは間違いなく最適なソリューションでした」とSong氏は語る。

When Life Gives You Tangerines VFX breakdown

チームはワークフローの効率化と映像表現の奥行きを高めるため、本作全体を通じてNukeの2.5Dプロジェクション機能を活用した。Song氏は次のように説明する。「プレート拡張や背景コンポジットにおいて、Projectionノードを用いた2.5Dプロジェクション技術を適用することで、本来であればフル3Dレンダリングが必要となる多くの工程を大幅に効率化することができました」

「マットペイントを活用した大規模な2.5Dワークフローでは、Nukeの高度なトラッキング機能を活用しました。これにより、従来のマッチムーブ工程を経ることなく、多数のショットを効率的に処理することができました」

When Life Gives You Tangerines VFX breakdown

一貫したルックの構築

ACESパイプラインを導入することで、M83は2Dアーティストと3Dアーティストが共通のカラースペース上で作業できる環境を整え、作品全体を通して一貫したルックを維持した。

「Nukeのノードベースのアーキテクチャによって、同じシークエンス内の異なるショットを複数のアーティストが担当する場合でも、色調やトーンの統一をスムーズに保つことができました」とSong氏は語る。

When Life Gives You Tangerines VFX breakdown

実際の制作工程では、オリジナルのプレートをもとにカメラトラッキングを行い、必要なアセットをカードやジオメトリに投影することでシーンを再構築した。

「この手法により、限られた制作期間の中でも、安定したリアルなパララックス効果を実現することができました」とSong氏は語る。「また、シンプルな背景の差し替えから、繊細な画面構成の調整、さらには大規模な環境拡張まで、さまざまな要件に柔軟に対応することができました」

荒れ狂う海の表現

『おつかれさま』のVFXにおいて、特に難易度が高かった要素のひとつが、済州島の多彩な海を再現することだった。昼夜の違いや、晴天から曇天まで変化する海の情景を描き分ける必要があり、膨大なショット数への対応に加え、一貫した高品質な映像を保つための高度な技術が求められた。

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なかでも、暴風雨のシーンは制作上とりわけ難易度の高い場面だった。本作はフィクションでありながら、当時の出来事や気象状況を忠実に反映している。作中で描かれる嵐については、当時の映像資料が残されていなかったため、チームは同規模の台風に関する記録や映像を参考にしながら表現を構築していった。なかでも、激しい波が押し寄せるシーンは重要な場面だった。大量の海水がオープンセットに流れ込み、俳優たちと直接関わる演出が求められたため、極めて高度な表現が必要とされた。

「このシーンを実現するため、私たちは特殊効果(SFX)チームと緊密に連携し、水の量やタイミングを緻密に計算しました。そうすることで、実際の特殊効果と私たちのデジタル表現を、違和感なくシームレスに融合させています」とSong氏は語る。

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荒れ狂う海は、不穏な空気と危機感を生み出すだけでなく、物語最大の悲劇を象徴する舞台でもある。このシーンは、現実に根ざしたドラマにおいても、VFXが物語の感情表現に大きく貢献できることを示している。

「監督と綿密な打ち合わせを重ねながら、登場人物たちの感情の高まりに合わせて、海の荒れ方も徐々に激しさを増すよう演出しました。そうすることで、彼らの動揺や葛藤を、より強く観客に伝えられると考えたのです」とSong氏は説明する。

 

M83による『おつかれさま』VFXブレイクダウンはこちら:

『おつかれさま』はNetflixで独占配信中です。

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