Nuke 16.0のスプラッシュスクリーンを手がけたアーティストに迫る
ノルウェーのオスロを拠点に活動するVFXアーティスト、Einar Martinsen氏は、クリーチャーや環境のデザインをライフワークとしており、最近では、Nuke 16.0のスプラッシュスクリーンを飾るビジュアルを手がけたことから、その作品を目にした方も多いのではないか。
『ロード・オブ・ザ・リング』の映画に心を動かされ、WētāでVFXの仕事をすることを長年の夢としてきたEinar氏。その夢を実現した彼は、さらにAmazonのトールキン作品『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』にも参加し、キャリアはまさに大きな節目を迎えることとなった。
今回のArtist Spotlightでは、Einar氏にこれまでのキャリアの歩みやデザインのインスピレーション、そして最新リリースとなるNuke 16.0のスプラッシュスクリーンをどのようにして生み出したのかについて話を伺った。

VFXの世界に進もうと思ったきっかけについて教えてください。
Peter Jackson監督の『ロード・オブ・ザ・リング』三部作は、私にとって一番好きな映画です。若い頃に観て、メイキング映像にもすっかり心を奪われました。いつかWētāで働くことが夢でしたが、世界の反対側に住んでいる自分にとっては、あまりにも遠い夢で、正直叶うとは思っていませんでした。

VFXの仕事で一番おもしろいと感じるのはどんなところですか。
VFXの魅力は、なんといってもその“職人技”にあると思います。まるで魔法を生み出しているような感覚なんです。この業界では、ILMの創設当初から、常に新しい技術や表現が生み出されてきました。その進化のおかげで、今もなお新しい表現に挑戦できる環境が整っています。ビジュアルアーティストとして、アイデア次第で表現の可能性がどこまでも広がる時代になっていて、創作の楽しさをますます感じています。最近はプリプロダクションからプロジェクトに関わることも増えてきて、映像制作の最初から最後まで携われるのも大きなやりがいのひとつです。

現在のお仕事の内容と、これまでのキャリアの流れについても教えてください。
現在はフリーランスとして活動しながら、Amazon MGM StudiosでVFXアートディレクターを務めています。以前はシニアコンセプトアーティストとして、さらにその前はマットペインターとして働いていました。20歳でスタジオに初めて就職する前には、美術学校と映画学校で学んでいました。そして2010年にVFXジェネラリストとしてキャリアをスタートさせ、その頃からNukeをはじめとしたFoundryのツールを使い始めました。
2015年にニュージーランドに移住し、Wētāでのキャリアをスタートさせました。以来8年間をそこで過ごし、そのほとんどの時間をWētāでの制作に費やしました。なかでも『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に参加できたことは、自分のキャリアを象徴する大きな出来事のひとつです。その後Amazonに移り、ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』の制作に参加。続いてParamountに所属し、Apple TV+のシリーズ『バンデットQ』に携わりました。この作品ではロケ撮影にも関わることができ、映画制作の現場についてより実践的に学ぶ貴重な経験となりました。

特に誇りに思っているプロジェクトと、その理由について教えてください。
『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』のシーズン1と2に関わることができたのは、本当に幸運でした。とてもクリエイティブな現場で、さまざまなことに挑戦できましたし、何より『ロード・オブ・ザ・リング』という作品自体が大好きなので、携われたことが心から嬉しかったです。
もうひとつ特に思い入れがあるのが、Netflixで配信されたノルウェー映画『トロール』です。かなり早い段階から監督と一緒にアイデアを練るところから関わることができて、コンセプトアートの制作やVFXにも携わりました。メインとなるモンスターのデザインを担当できたのは、本当に貴重な経験でした。さらにオマケのようなかたちで、巨大な頭蓋骨のデザインも任されて、それが実際に何メートルもの大きさで造形され、劇中では車の上に載って登場しました。自分がデザインしたものが実際に形になり、映像の中でしっかりと存在感を放っているのを見たときは、不思議な気持ちとともに、とても感動しました。

Nuke 16.0のアートワークは、どんなものからインスピレーションを得たのですか?
ノードツリーは、これまで自分がコンポジットの仕事をしてきた中で、常に中心にあった存在です。作業の基盤となるだけでなく、私にとってはクリエイティビティそのものを象徴するモチーフでもあります。そのイメージは、北欧神話に登場する「生命の樹」とも重なります。ツールが持つ可能性を視覚的に表現するうえで、このモチーフはとてもしっくりきました。また、ファンタジー映画に描かれる豊かな想像の世界からも、大きな影響を受けています。アートワークに登場する小さな船には、北欧の伝承的なイメージに加えて、Foundryが新しいツールを送り出す様子――まるで冒険に旅立つ船のようなイメージ――も重ねています。
樹の表現にあたっては、オリーブやオークといった、独特の美しさを持つ実在の木々からもインスピレーションを得ました。そうした要素を映像の中で表現するために、プロジェクト全体の基盤となる3D環境を構築するなど、新しい技術も取り入れて制作に取り組みました。

このプロジェクトのワークフローについて教えてください。
最初に取り組んだのは、Nukeファミリーの各製品ごとに異なるビジュアルを用意し、それぞれのスプラッシュスクリーンにしっかりと個性を持たせる方法を考えることでした。そこで思いついたのが、季節や時間帯によって雰囲気を変えるというアイデアです。次に、まずはペンと紙で構図のラフスケッチを描きながら、全体のイメージを整理していきました。ですがすぐに、いろいろなアングルやシーンに対応するには、ひとつの大きなシーンとして空間全体を構築する必要があると気づいたんです。そこで、複数のツールを使って3D環境を作り込み、最終的な合成にはもちろんNukeを使用しました。さらに、動きのある映像やその他のエフェクト制作など、Nukeが適している場面では積極的に活用しています。


このプロジェクトで、特に大変だったことや工夫した点はありますか。
とてもスケールの大きな世界観を一から作り上げる必要がありましたし、クリエイティブな自由度が高かった分、それがかえって大きなチャレンジにもなりました。そうした中で、自分のスキルをさらに広げることができたと感じています。最終的には、滝などの自然要素を加えてショットを仕上げる場面でもNukeを活用しました。Nukeは多くの要素を同時に扱えるうえ、アートディレクションの変更にも柔軟に対応できるので、そうした点でも非常に助けられました。
Nukeの機能や特長の中で、特に気に入っている点と、その理由を教えてください。
Nukeの中でも特に気に入っているのは、ノードベースのコンポジットシステムです。画像を奥行き方向に重ねて構成できるところも魅力で、今回のプロジェクトでもその手法を活用しました。自分はもともとマットペインターとしてのバックグラウンドがあるので、空間を頭の中で思い描きながら作業するスタイルが合っていると感じています。2.5Dのプロジェクションツールとノードベースのコンポジットを組み合わせて使えるのは、Nukeならではの魅力だと思います。さらに、ビューポート上で要素を動かしながら作業を進められるのも非常に便利です。こうした特長があるからこそ、キャリアを通じてずっとNukeを使い続けてきました。効率がよく、使い心地のいいツールだと実感しています。

Nukeを開いたときに自分のアートワークが表示されたのを見て、どんな気持ちでしたか。
初めて見たときは、本当に驚きました。まさかローディング画面に自分の作品が出てくるとは思っていなかったんです。キャリアを始めた頃は、自分のアートがNukeのスプラッシュスクリーンになるなんて想像もしていませんでした。
将来的に取り組んでみたいことはありますか。
自分はクリエイターでありストーリーテラーでもあるので、今後はその側面をもっと活かしていきたいと考えています。北欧神話にインスピレーションを受けた、自分なりの小さな世界を形にしていきたいんです。たとえば、いつか多くの人が関わるようなTVシリーズを制作できたら理想ですね。何百人ものチームで動かすような、みんながワクワクするプロジェクトをつくることが、今の自分の大きな目標です。

VFX業界を目指している人たちに、何かアドバイスはありますか。
私がこの業界に入った頃とは状況が大きく変わっていて、映画というものの性質上、業界そのものも常に進化し続けているんですよね。だからこそ大切なのは、「好奇心」と「映画作りへの情熱」だと思います。VFX業界の魅力は、さまざまな入り口があり、多様なキャリアの道が開けているところです。
もし可能であれば、志の近い仲間と出会えるような学校や講座に参加するのをおすすめします。ネットワーキングや人とのつながりは、キャリアのためだけでなく、メンタル面や日々の充実にもとても大切な要素だと思います。
それから、YouTubeや無料のソフトを活用して、できるだけ多くのことを自分で試しながら学んでみるのもおすすめです。最初のうちは、幅広くいろんなことに挑戦する“ジェネラリスト”として経験を積み、そこから自分の興味のある分野に絞っていくのが理想的だと思います。そしてもうひとつ大事なのは、単にお金のためとか、誰かがやっているからといった理由だけで進路を選ばないこと。何よりも、「面白そう」「やってみたい」と思える自分の気持ちを大切にしてほしいです。
Martinsen氏のその他の作品は、einarmartinsen.comやInstagramでご覧いただけます。
Nukeをさらに活用したい方は、Foundry Learn のチュートリアルライブラリをご覧ください。
初心者の方には、ご自身のペースでNukeを無料で学べるNuke非商用版のご利用をおすすめします。
また、学生の方はEducationページもあわせてご覧ください。