学生プロジェクトから生まれたViridian FX──次世代育成への取り組み
小規模スタジオが業界にもたらす確かな影響
Viridian FXは、ヨーク大学の支援のもと制作された実験的なインディペンデント映画をきっかけに誕生し、現在では数々の注目作を手がける実力派のVFXスタジオだ。
今回は、Viridian FXのスタジオ責任者兼VFXスーパーバイザーであるBen Louden氏、そして共同代表のThomas Mattinson氏とKit Monkman氏に取材を行い、教育機関から生まれたスタジオとしての原点を活かし、次世代のVFXアーティストをどのように育成しているのかについて詳しく話を聞いた。
Viridian FXの原点
イングランド北部の都市ヨークに拠点を置くViridian FXは、約15年前に設立された。2010年、Thomas Mattinson氏とKit Monkman氏は、インディペンデント作品らしく限られた予算の中、全編をVFXグリーンスクリーンで撮影する長編映画『The Knife That Killed Me』の制作に着手した。彼らは、予算的な制約を乗り越えるため、自らVFXチームを立ち上げた。ユニバーサル・ピクチャーズの支援に加え、Foundryから提供されたNukeのライセンス、そしてヨーク大学の協力を得て、ポストプロダクション&VFXの修士課程(MA)を修了したばかりのLouden氏を含む、6名の若手クリエイターがチームに加わった。

舞台出身のMonkman氏、映画学校で学んだMattinson氏、そして映像制作そのものへの強い情熱を持つLouden氏、三者三様のバックグラウンドが融合し、映画の完成をきっかけにViridian FXが誕生した。
「それぞれがまったく異なる道を歩んできましたが、そうした多様な経験や背景が組み合わさったからこそ、今のViridian FXがあるのだと思います」とMattinson氏は語る。
スタジオ名「Viridian」は、グリーンスクリーンから始まったチームの原点にちなんで名付けられた(Viridianは緑の一種)。現在のViridian FXは、HBOの『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』やNetflixのコメディドラマ『KAOS/カオス』といった話題作から、低予算のインディーズ系SFやイギリス国内のテレビドラマまで、規模やジャンルを問わず幅広いプロジェクトを手がけている。Louden氏とその仲間たちがかつて修了したVFX修士課程はすでに廃止されているが、Viridianでは現在、そのプログラムを復活させるための協議が進められている。
Viridian FXの強み
ロンドンを中心とした従来のポストプロダクション拠点に対し、ヨークは有力な代替地として注目されており、その地に拠点を置くViridianは、その特性を活かして存在感を高めている。ロンドンから北へ約200マイルに位置するこの街は、イギリスで唯一、ユネスコ創造都市ネットワークの「メディア・アート都市」に認定されている。
スタジオは、ヨークという街をクリエイティブ都市として発展させる一助となるだけでなく、フリーランスに依存するのではなく、地域に根ざした結束力のあるチームづくりにも力を入れている。現在のチームは25名で構成されており、いずれも正社員。12名のVFXアーティストに加え、少数のスーパーバイザー、プロダクションマネージャー、プロデューサーが所属している。

「スタジオのメンバーは皆お互いのことをよく理解していて、信頼関係もできているからこそ、柔軟かつスピーディに対応できるんです。クライアントにも、私たちならではの親しみやすさを感じていただけていると思います」とLouden氏は話す。「スタッフの定着率が高いのも、そうしたチームの一体感があってこそですね」。
Nukeが支える制作現場
Viridian FXのチームは、ヨーク大学での最初のプロジェクト以来、一貫してNukeを使用しており、現在ではNuke Studioが同スタジオのパイプラインに欠かせない存在となっている。特に、ショット数の多い長編プロジェクトにおいては、大規模なパイプラインに柔軟に組み込めるNukeの特性が重宝されているという。また、定期的に行われる充実したアップデートや、ほぼ無限とも言えるカスタマイズ性の高さも、Nukeを使い続ける理由のひとつとなっている。

「Nukeを使うかどうかなんて、もはや考えるまでもありません。そこにあるのが当たり前なんです」とLouden氏は言う。「Nukeのノードベース合成は、他のツールとは一線を画します。単なるソフトウェアというより、想像できる限りの道具が詰まった巨大なツールボックスのような存在です。Nukeでできないことなんてありません。あとはどうやって形にするか、それだけです」。
効率的なパイプラインの構築
小規模スタジオにとっては、オートメーションとスピードが何より重要であり、特にインディーズ映画の限られた予算で制作を進めるうえでは、効率性が成功の鍵を握る。Viridianでは、Nuke Studioのタイムラインツールを活用することで、プロジェクトをスケジュール通りに進行させており、Hieroを中心に制作管理・編集パイプラインを構築している。
「ショットがスタジオに届いてから数時間以内に、アーティストごとにカスタマイズしたNukeスクリプトを提供できる体制は、私たちのワークフローにとって欠かせないものです」とLouden氏は語る。
「シークエンスベースの作業が多い私たちにとって、HieroPlayerは欠かせないツールです。社内のパブリッシングパイプラインを通じて提出されたショットは、あらかじめ決められたフォーマットで指定のフォルダに自動で格納されるようになっており、HieroPlayerのタイムラインはそのフォルダを参照することで、常に最新の状態を反映します。これにより、どのアーティストも自分の作業がプロジェクト全体の中でどう見えるのか、リアルタイムで確認できるのです」。
CopyCatの活用
チームは初期の実験的な精神を受け継ぎながら、「ViridianLAB」の取り組みのもとで常に新しい技術の探求を続けている。中でも機械学習は注力している分野のひとつで、すでにNukeのCopyCatを活用し、さまざまなアプローチを模索中だ。たとえば、ロトシェイプからペイントデータを生成するなど、実践的な活用方法の検証も始まっているという。
CopyCatは、アーティスト自身のデータを使って機械学習モデルをトレーニングできるツールセットで、プロジェクトごとのニーズに合わせたエフェクトを自在に生成できるのが特長だ。

UEFA欧州選手権関連のプロジェクトでは、数千ショットにわたってCopyCatを活用した。膨大な量のグリーンスクリーンキーイング作業が必要だったが、複数のモデルをトレーニングすることで、ワークフローの効率化を実現した。
次世代への支援
Viridianは新しい技術の探求に積極的に取り組む一方で、次世代のアーティスト育成にも力を注いでいる。複数の大学での講義や学校向けのアウトリーチ活動に加え、毎年ヨークで開催される国際的なイベント「Aesthetica Short Film Festival」にも参加している。

さらに、ヨーク大学のVFX修士課程(MA)の復活を支援する計画も進行中だ。現在、新たなアカデミーの設立に向けて協議が進められており、このアカデミーは復活が検討されている修士課程の実習モジュールと直接連動する予定である。この取り組みは、Viridian FX誕生の原動力となった実験的な文化を再び形にすることを目指しており、3つの大きなメリットが見込まれている。
Monkman氏は次のように説明する。「まず第一に、地元の優秀な若者がVFXのキャリアを築ける道を整え、ヨークの拠点としての評価をさらに高めることができます。第二に、現在のスタッフがメンターとしてクリエイティブな役割を担う機会にもなります。そして第三に、実験的なプロジェクトを発展させ、それをスタジオのIP(知的財産)へとつなげていくことができます」。
協議はすでに進行中で、スタジオは今後12〜18か月以内のアカデミー開設を目指している。

未来のVFXアーティストへのアドバイス
では、これからVFXアーティストを目指す学生や若手に、チームはどんなアドバイスを送るのだろうか。
「本当に伸びるアーティストは、積極的に質問し、学ぶ姿勢を持ち続け、フィードバックも個人的な批判と捉えずに成長の糧として受け止められる人です」とLouden氏は語る。「大学では、自分がほぼ“監督”の立場で制作していますが、業界に出ると特定のブリーフに沿って、クリエイティブに問題を解決することが求められます。解釈力、チームワーク、そしてアイデアをどう形にして提示するかが大切です。経験と信頼を積み重ねていくことで、コラボレーションもどんどんクリエイティブになっていきます。
「今VFXを学び始める学生にとっては、まだ学びのほとんどがソフトウェアの習得です。そしてNukeを学ぶいちばんの近道は、とにかく触り続けることですね」。
本記事は、TVB Europe 掲載記事をもとにしています。
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