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Christina Ryan

Mari 8.0のスプラッシュスクリーンを手がけた3Dテクスチャアーティストに迫る

Christina Ryanは、Industrial Light & Magic(ILM)のシドニースタジオで活躍するリードテクスチャアーティストだ。所属チームでは、3Dモデルに質感やディテールを加え、その見た目を作り上げるテクスチャ制作を担当している。Christina自身も、クリーチャーや背景、乗り物、プロップなど、さまざまなアセットのテクスチャを手がけてきた。

今回のArtist Spotlightでは、Christinaが3DテクスチャアーティストとしてVFX業界に進んだきっかけや、Mari 8.0 のスプラッシュスクリーンに登場するクモ「Marilou」の制作プロセス、Mari を使ってそのデザインを実現した方法、そしてこれからVFX業界を目指す人たちへのアドバイスを聞いた。

Mari 8.0 splash screen Marilou spider

VFX業界を目指すきっかけとなった映画やシーン、映像表現はありますか?

私は昔から絵を描くことや物語を作ることが大好きでした。子どもの頃はアニメーション映画やゲーム、アニメに夢中で、好きなキャラクターの絵を描いて過ごすことが多かったです。

アニメーションやVFXの仕事に就くことを夢見てはいたものの、それが実現できるとは思っていませんでした。そんな考えが変わったのは、大学を一時的に離れていた時期に『ヒックとドラゴン』の展覧会を訪れたときです。展示されたアートワークを見て、アーティストたちがどのようにキャラクターに命を吹き込んでいるのかを知ったことが、私にとって大きな転機となりました。この経験を通じて、自分の進むべき道がはっきりと見えたのです。

VFXの仕事で最も魅力を感じるのはどんなところですか?

好きなものづくりを仕事にできることです! VFXの仕事は自分のスキルや興味、情熱を存分に生かせるので、とてもやりがいがあり、充実感も得られます。プロジェクトごとに新しい挑戦があり、技術も常に進化しているため、いつも刺激を受けながら新しいことを学び続けられるのも魅力です。

また、VFX業界の仲間たちとのつながりも大切にしています。同じ志を持つ才能豊かな人たちと一緒に仕事ができるのは、本当に素晴らしいことです。長年この業界で働く中で、一生の付き合いになる友人もたくさんできました。

Textured mask

現在の仕事内容と、そこに至るまでの経緯を教えてください。

私たちのチームの仕事では、クリエイティビティや細部へのこだわり、ストーリーテリング、そして伝統的な絵画技法が特に重要になります。モデリングやルックデベロップメントのチームと密接に連携しながら、最終的なルックを作り上げています。リードになってからは、チームのマネジメントや作品の制作計画にも携わるようになりました。メンバーへのクリエイティブ面・技術面での指導に加え、アーティストスーパーバイザーや制作チームと連携しながら、作業計画の立案やタスクの割り振り、問題解決に取り組んでいます。また、技術やパイプラインの開発にも携わっています。

実は、最初からVFX業界を目指していたわけではありません。もともとはアデレード大学で獣医学を学び、学位を取得しました。ただ、3年ほど経った頃、ほかの可能性を探るために一度休みを取ることにしたんです。その間に、以前から好きだったクリエイティブな分野への関心が再び芽生え、アニメーションやVFXの仕事について調べ始めました。

Academy of Interactive Entertainmentで3D映像・メディアのコースを受講していたとき、あるスタジオから学校に若手アーティストの募集があり、応募してみたところ、フルタイムで採用されたんです。6か月間のプロジェクトでジェネラリストとして働きながら、勤務時間外に勉強を続け、コースを修了しました。

この経験を通じて短期間で多くのことを学び、プロとしての実績を示せるショーリールも制作できました。それがきっかけでRising Sun Picturesのテクスチャ・ルックデベロップメント担当として採用されました。そこで5年間経験を積んだ後、思い切って州を越えてシドニーのIndustrial Light & Magic(ILM)に移り、以来ずっとここで働いています。

これまでに手がけた中で、特に誇りに思っているプロジェクトと、その理由も教えてください。

特に印象に残っているのは、『ストレンジャー・シングス』シーズン5と『トランスフォーマー/ONE』の2作品です。どちらもテクスチャリードとして参加しました。

Still from Stranger Things featuring Demogorgon

キャリアをスタートさせたばかりの頃、「いつかデモゴルゴンの制作に携われたら、どんなに素晴らしいだろう」と思っていたのを覚えています。オーストラリアの小さな町で育った私にとって、それは手の届かない夢のように感じられました。それから10年が経ち、憧れ続けてきた作品の最終シーズンに参加し、クリーチャーやその世界を作り上げる仕事に携わることができたんです。キャラクターやストーリーに深い思い入れがあったからこそ、この仕事はほかでは味わえない特別な経験になりました。本当に多くの思いと情熱が注がれた作品で、これ以上ないほど誇りに思っています。

『トランスフォーマー/ONE』も、私のキャリアの中で特に印象深い作品です。アニメーション制作に携わるのはこれが初めてでしたが、チームの結束が強く、息の合った連携のもとで仕事ができました。クリエイティブ面での自由度も高く、制作現場には純粋な熱意と互いを励まし合う雰囲気があり、それがこの作品を忘れられない特別な経験にしてくれました。

Still from Transformers One

Mari 8.0のアートワーク「Marilou」のアイデアは、どのように生まれたのですか?

どんなプロジェクトでも、取りかかるまでが難しいものです。だからこそ、Foundryがインスピレーションのもとになるムードボードを用意してくれたのは、とてもありがたかったです。明るく色鮮やかなムードボードには、自然のモチーフやかわいらしい生き物がたくさん盛り込まれていました。ひと目で心を惹かれ、自分の作風にもぴったりだと感じました。

このプロジェクトには長い時間をかけて取り組むことになるとわかっていたので、自分が興味を持てる題材を選ぶことが大切でした。私は昔から動物や小さな生き物が大好きで、特に少しデフォルメされた、アニメーションのキャラクターのような愛らしさを持つ生き物に惹かれます。

Mari 8.0 splash screen Marilou spider
Mari 8.0 splash screen Marilou spider wip

そんな中で目に留まったのがハエトリグモでした。愛らしく、個性豊かで、とても魅力的な生き物です。制作を進めるうちに、この8本脚の小さな生き物こそMari 8.0を表現するのにぴったりだと感じるようになりました。私は親しみを込めて、このクモを「Marilou」と名付けました。さらに、シーンを完成させるために、Marilouが乗る葉っぱも制作しました。これによって、自然の中にいることを感じさせながら、作品全体にまとまりを持たせることができました。

制作にあたってどのようなリサーチを行い、どんな資料を参考にしましたか?

ハエトリグモをモチーフにすることを決めてから、数週間かけて参考画像を集め、PureRefにまとめました。集めた画像はクモの種類や構図、ポーズ、体の構造などに分類して整理しました。特に目を引く配色(明るいグリーンとオレンジが気に入りました)や、かわいらしく親しみやすい印象の構図やポーズを探しました。クモが苦手な人たちを怖がらせたくなかったので(笑)。ハエトリグモには何百もの種類があるため、どの種類を選ぶかも重要でした。最終的に選んだのは、レガルジャンピングスパイダー(Regal Jumping Spider)です。イメージしていた配色に合っていて、体の表面に多彩な質感があることが決め手になりました。

Mari 8.0 splash screen references

今回の制作では、主にどのようなものからインスピレーションを得ましたか?

このプロジェクトを通じてマクロ写真の魅力に気づき、Instagramで才能豊かなフォトグラファーたちをたくさんフォローするようになりました。フィードには、小さな昆虫や生き物たちの興味深いディテールを捉えた写真が並ぶようになりました。そうした写真は、シンプルな構図と浅い被写界深度、被写体の色を引き立てる明るい背景が特徴でした。私もこうした表現をアートワークや最終的なコンポジットの仕上げに取り入れ、スケール感とリアリティを出すようにしました。

Mari 8.0 splash screen references

今回のプロジェクトでは、どのようなワークフローで制作を進めましたか?

制作はiPadから始め、Nomad Sculptでベースメッシュの作成と最初のスカルプトを行いました。デスクを離れていても作業を進められるので、とても便利でした。脚の制作にはインスタンシングを活用しました。原点でスカルプトし、8本になるようにインスタンシングしました。その後、CozyBlanketでリトポロジーとUV展開を行いましたが、驚くほど直感的に操作でき、楽しく作業できました!

Mari 8.0 splash screen spider render of raw sculpt

その後、作業をPCに移し、ZBrushでスカルプトをさらにブラッシュアップしました。特に難しかったのは、しわの寄った金属質の牙の表現です。Mariで手描きしたアルファをガイドにして、作業にはかなりの手間をかけました。Blenderは、ファイル管理や複数のUDIMへのUV配置、リギング、ポージングに使用しました。

制作の早い段階でアセットをHoudiniに読み込み、構図やライティング、ディスプレイスメントの検討を始めました。ポーズとカメラを早めに決めておくことで、どこに力を注ぐべきかが明確になり、画面の中でキャラクターの個性を引き出すことにもつながります。

Mari 8.0 splash screen wip

テクスチャ制作と細部のディスプレイスメントにはMari 7.1v1を使用しました。普段はまずディスプレイスメントに取り組み、その後でカラーマップやセカンダリマップの制作に移ります。今回はクリーチャー制作で使われる定番のワークフローを採用し、手描きのペイントを中心に、必要に応じてフォトベースのタイルテクスチャやTexturing XYZのマップで補いました。

グルーミングはHoudiniで行いましたが、今回のプロジェクトで最も難しい工程でした。シェーディング、ライティング、レンダリングにはRenderMan for Houdiniを使用しました。これにより、ジオメトリのアトリビュートをシェーディングに直接利用できました。

Mari 8.0 splash screen wip

今回のワークフローでは、RenderManとMariをどのように組み合わせて使用しましたか?

Industrial Light & Magic(ILM)が開発したマテリアルレイヤリングシステム「MaterialX Lama」には、以前から慣れ親しんでいます。RenderManを通じて一般に利用できるため、今回のワークフローに取り入れるのは自然な選択でした。Mariで作成したテクスチャとリージョンマップをHoudiniに読み込み、RenderManプラグインを使ってMarilouと葉っぱそれぞれにカスタムシェーディングネットワークを構築しました。

今回のプロジェクトでは、Mariを使うことで克服できた課題はありましたか?

今回のプロジェクトでは大量のアルファやテクスチャを作成する必要があり、その作業にMari 7.1の新機能である「2Dペイント」を活用できたのがとてもよかったです。ほかのソフトウェアに切り替えることなく、その場で調整を加えられるうえ、Mariの優れたツール群も活用できました。

今回のプロジェクトを通じて、新たに学んだことはありましたか?

たくさんありました! 自宅でゼロからプロジェクトを立ち上げると、さまざまな課題に直面します。自動化された仕組みも、あらかじめ用意された環境もないからです。特に大変だったのは、ACESのカラーパイプラインやレンダリング環境の構築でしたが、その過程で発生するさまざまな問題のデバッグ方法を習得することができました。

これほど複雑なグルーミングを作成し、テクスチャ制作やシェーディングまで手がけることは、クリエイティブ面でも技術面でも、自分の知識とスキルが大いに試される経験でした。一方で、これまで培ってきたルックデベロップメントのスキルが応用できることもわかりました。また、作業の進め方や問題については経験豊富な友人たちによくアドバイスを求め、一人で悩まないようにしていました。

Mari 8.0 splash screen wip

Mariを起動するたびにご自身の作品が表示されるわけですが、どんなお気持ちですか?

言葉では言い表せないほど感激しています。このような形でVFXコミュニティを代表できることを大変光栄に思いますし、心から感謝しています。

ほかのソフトウェアと比べて、Mariにはどのような強みがあると思いますか?

Mariの強みは、大規模なプロジェクトにも対応できる高い堅牢性と安定性を備えながら、手描きのペイントやプロジェクト管理を自分に合った方法で行えることです。また、カスタマイズ性が非常に高く、大量のUDIMやテクスチャのエクスポートも簡単に管理できるうえ、正確なカラーマネジメントにも対応しています。

特に大きな利点だと感じているのが、ノードグラフです。柔軟性が高く、私がルックデベロップメントアーティストとして使っていたシェーディングのワークフローにも似た操作感があります。これは重要なポイントで、必要に応じてさまざまなコンポーネントをエクスポートし、シェーダー側でバランスを再調整できるようにシーンを構成できるからです。

Mari Node Graph

Mariの機能や特徴の中で、特に気に入っているものは何ですか? また、その理由も教えてください。

クリーチャーや有機的な形状には、手描きのペイントやイメージプロジェクションを得意とするMariがとても気に入っています。特に、ペイントバッファやワープ機能を使ってイメージを投影したり、アルファを活用して作品にストーリー性を持たせるディテールを描き込んだりする作業が大好きです。

次のバージョンのMariに期待する新機能や改善点はありますか?

Bakeryには、ベイクの種類の追加や、より柔軟なパッチ選択、メッシュやUDIMごとに設定を細かく調整できる機能など、さらなる機能拡充を期待しています。また、2Dペイントやマルチチャンネルへの対応が今後どのように進化していくのかも楽しみです。

ペイントしながらディスプレイスメントを確認できる、より正確で処理効率の高いリアルタイムのビューポートシェーダーがあると嬉しいですね。また、私はツールを作るのが好きなのですが、プログラミングの知識がないので、ギズモの作成やユーザーインターフェースのカスタマイズを、アーティストがもっと手軽に行えるようになるといいなと思います。

Mari 8.0 splash screen wip

これからVFX業界を目指す若い人たちに、どのようなアドバイスをしますか?

まずは、一生懸命努力する覚悟を持つことです。VFX業界は規模が小さく、競争も非常に激しい世界です。可能であれば、業界とのつながりが強い学校を選ぶことをおすすめします。そうすることで、業界内で人脈を広げる機会が得られますし、自分に合った具体的なアドバイスをくれるメンターにも出会えます。

また、自分の学びには自分で責任を持つことが大切です。興味のあるスタジオについて、どのような作品を手がけているのか、若手アーティストに何を求めているのかをしっかり調べてください。どこにチャンスがあるのか、そしてそのチャンスをつかむために転居したり、目標を柔軟に変えたりする覚悟があるのか、自分自身と正直に向き合うことも必要です。

最後に、自分が最も情熱を感じる分野を見つけ、その分野のスキルを磨くことに力を注いでください。VFXの仕事は専門性が非常に高く、目指す分野に合わせてスキルを磨き、ショーリールの内容を工夫することで、業界に入れる可能性が大きく高まります。

Mariの動画講座 Mari in Minutesでは、VFXやアニメーション制作におけるテクスチャペイントの基礎を、短時間でわかりやすく学べます。ぜひご覧ください。